恋のためらい~S系同期に誘惑されて~
それでも、面倒臭がり屋の早紀にしては珍しい、メールでの返信だ。

笹山は何か知っている様だったけれど、今のこの微妙な空気の中で、そんなことを口に出来る訳も無かった。

今までのままで、と笹山には言われたのに、自分がそう出来ているのか分らない。

何をどう解釈して良いのか。

仕事の手を止めてしまうと、こんな風に別の思考が働きだす。

私は早紀の言う通り、臆病者だ。

笹山に失恋するのも怖かったけれど、今となっては自分の気持ちが溢れ出しそうで、怖い。

彼と仕事の会話を交わすたびに、別の言葉が自分の口から飛び出しそうで、それが怖くて堪らない。

早くこの仕事が終われば良いのに、と思う。

笹山と一緒に仕事をしながら、初めて湧いた感情だった。



―――

「お、終わった……」

浅沼君が万歳をしながら、立ち上がった。

今日は、休日出勤2日目の夕方。

派遣の女の子を除く4人は、予定通り休日返上で仕事をしていたが、結局昨日1日では片付けられなかった。

さすがに高松さんも休日出勤の徹夜は止めようと言って、今日に跨ぐ形となったのだ。

「お疲れ様、上出来だね」

高松さんはいつものようにニコニコしながら、私達を労う。

その笑顔からは、かなりの疲労度が滲み出ている。

自分も同じ様な顔をしているんだろうと思いながら、散乱している紙ベースの書類を片付け始めた。

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