恋のためらい~S系同期に誘惑されて~
ちら、と机越しに笹山の方を見ると、高松さんと笑いながら何やら話しをしている。

今更ながら、笹山の笑顔に心臓が痛い。

こんなのどこか病気かもしれない、なんて阿呆なことを考えながら、黙々と身の回りの掃除をしていると、浅沼君に声を掛けられた。

「玉井さん、高松さんが『お疲れ様会』しましょうって」

「うん……良いけど。出来れば、御飯食べたいかな」

今、お酒飲んだら確実に寝そうだもん。

「じゃ僕が、どっか良いところ予約しま~す」

浅沼君はスキップしそうな勢いで、自分のデスクへ戻っていった。



浅沼君が予約したのは、何度か来たことのある会社の駅に近い、赤提灯の小料理屋だった。

浅沼君、渋いわ。

「最初は生中いくか」

高松さんは嬉しそうな顔をして、生ビールを3つ注文する。


3つ。

そう、3つなのだ。

笹山は来なかった。

これから用事があるから、と少しだけ申し訳無さそうな顔を高松さんに向けた。

私には、飲み過ぎんなよ、とだけ言葉を残して。


……余計なお世話だ。


話しを聞くのはおろか、ろくに話しすらしていないのに、私達は何の約束もしていない。

明日から休みなのに、私はこんな気持ちのまま年越ししなくてはいけないの?

この仕事を滞りなくするため、笹山に騙された気分だった。

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