恋のためらい~S系同期に誘惑されて~
本当は聞かなくてはいけないこと、話さなくてはいけないことがある筈なのに、それだけで幸福感に包まれた。

こんな気持ち、ずっと忘れていた。

誰でも良いわけでは無いのだ。

怖い。でも、怖いくらい好き。


永井さんとはこんな気持ちになれなかった。

永井さんは、私の奥にある気持ち、そして無い気持ちに気付いたのだろう。

とすれば、私はかなり嫌な女だったのかも。


「……私、永井さんに悪いことしてたんだ」

「お前、今それ言うのかよ」

笹山の腕の力に、胃が締め付けられる。

「ぐ、苦しい、笹山、吐く」

「酔っぱらい。頭の中で考えてること全部口に出せよ」

「……笹山の話しを聞きたい。怖いけど、聞きたい」

私は、ようやく一歩踏み出した。


笹山は私を腕に閉じ込めたまま、ポツリポツリと話しをし始めた。

自分の母親と友野グループの会長が兄妹で、友野社長の従兄弟にあたること。

両親は離婚していて母親に引き取られたものの、殆ど伯父さんの家で育ったこと。

現社長が突然アメリカの会社に飛び出してしまったために、友野ソリューションへ入社することになったこと。

「無視することも出来たんだ。でも伯父には育ててもらった恩があったしな。速人兄が万一帰って来なかった場合のあれだ。備え、保険みたいなモン。俺にしたら、そんなにソリューションに興味があった訳でもねぇし。ただ俺の母親は違ったんだ」

浅はかな女だ、と笹山は言った。

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