四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~

残虐な父

そんな状態がしばらく続いたある日。


家に帰ると珍しく父がいた。

そして何かがいつもと違う。

空気とでもいうのだろうか。

なにか、いつもそこにあるべきはずのものがない、そんな感じ。


「お父さん、お仕事は?」

「仕事は切り上げて帰ってきたよ。今日は午後一番に大事な用事があったからね。」

「大事な用事?」


そして私は気付いた。気付いてしまった。


「あれ……お父さん、なつ、ニワトリ知らない?」

「なつ、っていうのはあの男の名前だろう?」


そう言った父の、含んだような笑いに嫌な予感がした。


「どこ!なつはどこっ!お父さん、教えてよ。なつはどこ!!」


私が泣きそうになりながら詰め寄ると、父は満足そうに笑った。


「おいしそうに育ったじゃないか。今日食肉加工処理センターに持って行ったよ。俺の知り合いがいてね。おかげで千円で買ってくれた。ほら。」


父は薄っぺらい千円札を差し出した。


「……っいや。いやぁだぁ!!」


思わず大声で叫んだ。

なつが、なつが……。


「どうしてっ!どうしてよ!!!」

「お前、婚約破棄したんだって?」

「……。」

「秋が自分が振ったんだと言っていたが、どうせ嘘だろう?お前はいまだにあの男に縛られているんだろう?」

「だからって……。だからってなつを殺すことないじゃない!なつだって生き物だよ。生きる権利があるんだよ!」

「うるさい、黙れ!穢れた生物教師なんぞに洗脳されやがって!」

「返して!なつを返して!」

「新しいヒヨコが欲しいのか?そんなものいくらでも買ってやるぞ。」


その言葉を聞いて、私は家を飛び出した。


目的地はもちろん……。


何度目だろう、そう思いながら――
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