四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~
外は雨。
私が飛び出すのは大抵雨の日だ。

雨の日はいいことなんてない。


夏目に会いたかった。
もう何もかもどうでもよくて、ただ夏目に会いたい、それだけだった。

びしょ濡れになっても、息が切れても、もしそこに私でない誰かがいるとしても。


こじんまりしたマンションが見える。
あそこで夏目は暮らしているんだ。
いつも変わらず。
同じ時間の流れの中で。


階段を駆け上がる。

呼吸を整える間もなく、インターホンを鳴らした。


「はい。」


やっぱり。
いつも夏目はインターホン越しではなくて、玄関を開けに来る。


「どうしてお前、」

「……っ。」


夏目の顔を見たとたん、いろんな思いが込み上げてきて、何も言えなくなった。


「そんなびしょびしょで、」

「先生、ごめんね。」

「何が?」


夏目は不思議そうに私を見つめる。

久しぶりに、そのまなざしを受けて、私は涙が止まらない。


「泣いてちゃ分からないだろ。しょうがないな、入れ。」

「いいの。ここでいいの。」

「え?」

「先生の顔見られたら、それでいいの。」


夏目は無言になる。
でも、私の言葉を待ってくれているんだと、分かった。


「ごめんね。なつ、守れなかった。」

「なつって?」

「ヒヨコの名前だよ。」

「何かあったんだな。」

「ごめんね……。」


絞り出すような声で言った後、耐えきれずに声を上げて泣いた。

夏目に迷惑だって分かっていながら。


「どうせ今度だって、詩織のせいじゃないんだろ。」


夏目が言った。

初めて私のこと、下の名前で呼んで言った。


「先生……。」


濡れた髪に手が置かれた。

そのまま肩まで手が滑っていって。

そっと引き寄せられた。

夏目の肩に、こつん、と額が当たる。


「いつもお前は雨の中を走ってくるんだな。」


夏目の声がすごく近くで響いた。

私はそっと目を閉じて、夏目の胸に顔をうずめた。

あの夏の、なつを引き取った夏の、おひさまの香りがした。
< 102 / 182 >

この作品をシェア

pagetop