四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~
第6章 すべてを越えた愛

会えない

重い荷物をなんとか持ちながら、家に帰った。

いなければいいのに、と思えば思うほど、家には明々と灯がついていた。

それを見て、軽かった心が一気に重くなる。


――帰ってきちゃったんだ。


修学旅行は、ただの夢だったのかもしれない。

こうしてここに帰ってくると、何にも解決なんてしたわけじゃないことを、思い知らされるのだ。

早瀬、という表札のついた門をくぐる。


「ただいま。」

「お帰り、詩織。」


私は父に目を合わせずに部屋に向かう。

しかし、そんな私を父が引きとめた。


「体調は、大丈夫なのか?」

「え?」


まさか、まさか。


「宿舎に帰らなかったんだろ?お前は。」

「……。」

「一緒にいたのは誰だ?誰なんだ!言え!!」

「好きな人と、……先生と一緒にいたの。」

「なんだと?しお、」

「悪いの?お父さん今まで私のこと、いいように扱おうとしてた!私、もうそんなの耐えられないよ。私だって、好きな人と一緒に、」

「うるさい!うるさいうるさい!」


父が私の頬を殴りつけてくる。


「やめて!やめてよ、お父さん!」

「黙れ!」

「いやあ!助けて!助けて!先生!夏目先生っ!」


どんなに叫んでも夏目の耳に届くはずない。


私が先生の名を呼ぶたびに、父の表情は険しくなって、私に振り上げる手はさらに高くなった。


それでも、私は謝ったりしなかった。

どこにこんな強さがあったのか分からない。

でも、ここで折れるのは嫌だった。


せっかくすべてを受け入れてくれた夏目。


秋の時みたいに私が折れたなら、世界で一番大切な人を、再び傷つけなくてはならない。


「明日から学校へはやらない。」

「嫌っ!」

「やらない!」


父は乱暴に私の手を引いた。

二階の私の部屋に押し込まれる。


「家庭教師をつける。いいか、お前はこの部屋から一歩も外に出てはいけないんだからな。」

「ばか!お父さんのばか!」


バタンと音を立ててドアが閉まった。

口の中が血の味がする。


うつむくと、こらえていた涙が、次から次へと流れ落ちた。


――先生に会えないじゃない。


体中が痛くて、それでも、考えるのは夏目のことだけだった。



母がどうして私をこの父親の手に渡したくなかったのか、初めてはっきり分かった気がした。
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