四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~
部屋のドアの前に立って、様子をうかがっている父の気配を感じる。


だから私は布団に潜って、携帯電話で夏目の電話番号を探した。

この前投げてしまったせいで、ちょっとだけ傷がついたケータイ。

でも、その傷さえ、夏目との思い出だから愛おしい。


「なんだ、どうした?」


変わらない夏目の声に、胸が熱くなる。

私はささやくような、小さな声で答えた。


「明日から、学校に行くなって言われちゃった。」

「え?……お父さんか。」

「そう。だけど、だけどね、何とかして抜け出してみせるからね。私、先生に会いたいもん。先生のそばにいたいもん。」

「でも、無理はするなよ。君の父親のことだ、何をしでかすか……。」

「何されたっていい。私はね、何があってももう、先生のこと裏切ったりしないから。」

「ありがとう。」


その時、急に乱暴に布団がめくられた。

右手につかんでいたケータイが、手からするりと抜き取られる。


「ふざけるな!」

「返してよ!返してってば!」

「もしもし、先公か?」


父が大声で電話に出る。

私は耳をふさぎたかった。


「お前か、うちの娘をふしだらな女にしたやつは!」


でも、私は後悔しない。

好きな人と一緒にいたと、言ったことを後悔しない。


私は一生夏目のことしか愛さない。


このまま父の言うとおりになるなんて、もう嫌だから。


「うちの娘は転校させるよ。それから、教育委員会に訴えてやる。お前は、職を失い、拘置所に入れられるんだ。残念だったな、そんなに若いのに。まだ教師になりたてなんだろう?」


父の声が醜い。

この人の血を受け継いでいるから、私の心にも邪悪な悪魔が住んでいるのだ。

私は、電話越しに聞こえるように、精一杯叫んだ。


「先生!大丈夫だからね!私がいるから!大丈夫だよ!」

「ばか!うるさい!」

「先生!大好きだから!」


父親に蹴られても、大声を張り上げた。


「大好きだよ!ずっとずっと、大好きだよ!」


涙が頬を伝う。

父親がケータイを真っ二つに折った。

それを私に向かって投げつけてくる。


「いいだろう。大好きな先生と、もう二度と会えないようにしてやろうじゃないか!」

「勝手にすれば。」


大丈夫。

絶対大丈夫。


離れていても、私たちの思いは一つなんだから。


大丈夫。

また会えるから。


自分に言い聞かせる。


こんなにいろんなことを乗り越えて、実りかけた恋だから。


絶対に手放したりしないんだ――

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