異世界で家庭菜園やってみた
悠里が見ていた侍女は、トレーの上に銀色の食器を乗せていて、コウメさまのいる所までやって来ると、テーブルの上に急須やカップを並べていった。

一通り並べ終わると、侍女は会釈をして、また元来た方へと帰って行った。

「ちょうどお茶にしようと思っていたの。あなたが来て下さって良かったわ。一人では寂しいものね」

そう言いながら、急須を手にしたコウメさまの所作を、悠里はぼんやりと眺めている。

「あなた、お名前は?」

そう聞かれて初めて、挨拶すら、まだまともにしていないことに気が付いた。

「あ。す、すいません。ご挨拶が遅れました。わたし、悠里と言います。あの、コウメさま、ですよね?」

「ええ、そうよ。ユーリさん」

くすくす笑いながらコウメさまは、悠里に椅子に座るよう促して、お茶の入ったカップを差し出した。

「ありがとうございます」

コウメさまの正面の席に座り、カップを持とうとすると、手が微かに震えていた。
悠里は緊張すると手が震える性質(たち)だった。

「アシュラムがあなたを探していたわ」

「え!?」

「ふふふ……あんなに顔色を変えたアシュラムは初めてだったわ。ずっと幼い頃から知っているけれど」

コウメさまは本当なら八十近い筈なのに、ちっともそんな年齢には見えなかった。

確かに顔や手の甲には皺が目立つけれど、話し方や振る舞いには年齢を感じさせないものがある。

ハキハキとしていて、とても上品だった。

元の世界ではどうだったのか知らないが、この世界で長く王族の一員として過ごして来た重みというものが、コウメさまにはあったのだ。

「アシュラムの所に戻ろうと思って……」

高貴な人の纏う雰囲気に飲まれながら悠里が言うと、コウメさまはゆっくりかぶりを振った。

「どうしてですか?」

「今アシュラムに会っても、あなたはきっと平静ではいられないでしょうから」

「大丈夫です!少し頭を冷やしたし、アシュラムの言ってる事に突っかかったのはわたしの方だから、ちゃんと謝らないと……」

「まあ、少しゆっくり、お茶を頂きましょう。ね。せっかく同郷の人間が出会えたのだから」

「……」

「アシュラムには、あなたをしばらく借りるからって伝えてあるの。だから、少しお喋りしましょう。ね?」

コウメさまがこの世界で過ごした年月は、元の世界で過ごした年月より遥かに長い。

ここで、コウメさまは、何を思い、どう過ごして来たのか。

そのことを思い、悠里は首を縦に振った。
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