異世界で家庭菜園やってみた
「あの子にもそういう存在が出来るといいが……」

思わず思い出に浸ってしまったことを恥ずかしく思いながら、サベイル・デュ・ロンドベル外務卿は執務卓に放り出していた羽ペンを取り上げた。

だが、そのペンにインクが付けられることはなく、サベイル卿の指の間で弄ばれている。

先程部屋を出て行った少女のことが気掛かりだった。

彼女のことは息子に任せたが、仕事は出来ても、こと異性の心の機微には疎い息子のことだ。

サベイル卿が母を支えたように行くとは思えない。

鉄の輸入にしてもそうだ。

政治家としては拒否したが、個人的には息子以上に手助けをしてやりたいと思う。

(どうも、庇護欲を駆り立てる娘だな……)

頼りない。そのくせ、その瞳には凛とした光が宿り、強い意志を感じさせる。

(ああいう娘に恋したら、男は苦労するぞ)

我が息子はどうだろう?

あの子を守る気はあるみたいだが、未だかつて、異性と浮名を流したことのない男だ。

(ふむ。そういう男に一旦火が付けば面白いことになるが、な)

出来れば、息子があの娘の伴侶になってくれたらと願ってしまう。

母が子を得て、この世界での基盤を築けたように、あの娘もまた、この世界で生きて行くなら幸せになって欲しい。

「うちの息子は四分の一日本人だしな」

ふむ。なかなかいい考えだ……。




中年の妄想にしてはいささか飛躍し過ぎの感があるが、母のように泣いてほしくないというサベイル卿の思いがその根底にはあった。

自分が母を支えたように、悠里を支えられる人間が今すぐにでも必要だと思うのだ。

彼女の心の奥底にまで浸透するような人間が。

(それが、我が息子であったなら……)

ウリエルが悠里の心に寄り添い、彼女の愛を得られたなら。

(最高だな)

サベイル卿の悠里を思う余りの勝手な妄想はしばらく続きそうだったが、その時遠慮がちに扉がノックされたことで思考は途切れてしまった。

「なんだ?」

部下には呼ばない限り執務室には近付かないように言ってある。

それなのに、何の用だ?

「失礼してもよろしいですか?」

声の主に思い当たり、サベイル卿は瞠目した。

「約束はしていなかったはずだが?」

扉の向こうで、相手が身じろいだのが分かった。

「はい。それを承知で、どうしてもお話ししたく参りました。入室してもよろしいですか?」

サベイル卿は深く息をつくと、「仕方ないな」と呟いた。

ここで追い返してもいいならそうしていたが、相手はそういう訳にもいかない人物だった。

「入りたまえ」

やや固い声でそう言うと、ゆっくりと扉が開けられた。

「失礼します」

途端、部屋の空気が変わったような気がした。

(まるで、天使が降臨したみたいだな……)

光源もないのに、キラキラ輝いているように見える。

辺りを払うような威厳と、神秘的なオーラ。

彼と僅かながら血が繋がっているとは言え、やはり全く立場の違う人間なのだと思い知らされる。

「ユーリさまがこちらを訪ねられたと聞きましたが……」

そう切り出したのは、神殿の長であるアシュラムだった。



















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