キミさえいれば
「凛。黒崎先輩が来てる」


美咲の言葉にドクンと心臓が鳴る。


教室のドアに視線を向けると、先輩が私の方を見て立っていた。


「行ってくるね」


美咲にそう告げると、私は席を立って先輩の元へと向かった。


「凛。ちょっといい?」


私はこくんと頷いた。


先輩は私の手を引くと、階段の踊り場まで私を連れて行った。


心臓がドクンドクンと音を立てる。


だけど、それを先輩に気づかれないように平静を装った。


「凛、どうして返信してくれないんだ?

電話にも出てくれないし。

バイトも辞めたって、コンビニの店長から聞いた。

なんで俺に言ってくれないんだよ」


そう言って先輩は私の顔を覗き込んで来るけど、私は目を合わせはしなかった。


「凛、俺のこと避けてる?

もしかして、あの夜のことでイヤになった?

でも凛、あの時嬉しいって言ってくれたよな?

すごく幸せだって。

あれは、嘘だったの……?」


先輩……。


幸せだったよ。


こんなに幸せな瞬間はないって思った。


思ったけど……。


でも、私と先輩は付き合ってはいけないんだよ……。


だって、私達は……。
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