キミさえいれば
その日の生徒会は、自己紹介と今後の仕事内容の簡単な説明にとどまった。


みんながこの部屋から去っていくなか、私はいつまでも立ち上がれずに、ただ真ん中の彼の動きだけをじっと追っていた。


気がつけば、私は彼と二人きりになっていて。


震える指をぎゅっと握りしめると、勇気を振り絞って声をかけた。


「たもっちゃん……だよね?」


私の発した言葉にビックリする彼。


「えっ?」と苦笑いをされた。


「確かに俺をそう呼ぶ人もいるけど、ビックリした。

いきなり初対面の人に言われたから」


初対面?


うそだ。


絶対間違いないのに。


確かにあの頃のたもっちゃんとは、背の高さも体型も声も随分違うけど、眼鏡の奥のその優しい瞳は記憶の中の彼そのものだ。


「忘れちゃったの?」


あの日のことも。


あの日の約束も。


「何が?」


怪訝そうにたずねる彼。


「お兄ちゃんでしょう?」


12歳になるまで、ずっと一緒に生活していたひとつ年上の優しい兄。


その兄の面影があって、しかも同じ名前なのに。


私の言葉に、ふぅと息を吐く彼。


「そっか。やっぱりそうだったのか……」


「え……?」


今なんて言った?


“やっぱり”って言った?


それって、つまり。


あなたは、私が探していたたもっちゃんなの?


「噂どおりだったんだね。

それが男を落とすテクニックなんだ」


まさかの言葉に、世界がガラガラと音を立てて崩れていくような気がした。
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