キミさえいれば
赤ちゃんを失ったことを引き摺って、父親に反発しているうちに。


気がつけば、もういい歳になっていて。


この先このまま一人でいることが、急に怖くなったの。


そんな時よ。


大学時代の同級生が、お見合い話を持って来てくれたの。


初婚の人は敬遠していたんだけど、その相手は子連れだと言うし。


この歳で子供を産むのはリスクが高いから、私にはぴったりの相手だなと思った。


お会いしてみると、人柄の良い優しい男性でとても好感が持てたし。


黒崎の名前になることにも、抵抗がないとおっしゃってくださって。


それで結婚したのが、凛ちゃんのお父さんの洋二さんだったというわけなの。


そうやって、私にもようやく穏やかな日々が訪れた。


今の生活には満足しているし、充分幸せだけど。


でも、今でも時々思うのよ。


もしあの時、産ませてくれていたらって……。


もし産んでいたら、父とはずっと仲良くしていられたし。


孫の顔だって見せてあげられたのにって……。


その後悔だけは、ずっと死ぬまで付きまとうような気がしているの。
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