キミさえいれば
「それにしても、凛は遅いね」


父さんが時計を見ながら言った。


「女子トイレは混雑するのよ。

仕方ないわ」


外は冷え込むな。


凛の身体が心配だし、早く帰った方が良さそうだけど。


「あ、戻って来たわ」


母さんの言葉にパッと顔を上げると、トイレから出て来る凛の姿が見えた。


「ねぇ、保。

凛、顔色が悪くない?」


「え……?」


凛の母親の言う通りで、凛はなぜかひどく不安そうな顔をしている。


俺は慌てて凛のところへと駆け寄った。


「凛、どうした?

気分が悪いのか?」


そう言った直後、凛が倒れるように俺にもたれかかって来た。


「凛?」


凛はブルブルと小刻みに震えている。


「寒いのか? 大丈夫?」


凛の背中に手を回して、さすってやる。


「どうしよう、たもっちゃん……。


お腹がすごく痛いの……。


出血してて……」


「えぇっ?」


「お願い、たもっちゃん。


赤ちゃんを……。


助けて……」


そう言って凛は、俺の腕の中で意識を手放した。



「凛!


しっかりしろ!



凛!!!」
< 296 / 311 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop