彼が虚勢をはる理由

かれがきょせいをはるりゆう。






「夏野君!」


六時間目、今日の最後の授業が終わってから担任が戻ってくるまでの短くも騒々しい時間に、私は夏野君に声をかけた。
私と夏野君の席の周りの何人かが振り返ったのが見えたけど、しかし夏野君は振り返らない。
…まぁ良いや、一回目にシカトされるのはいつもの事だし。私はめげずに、もう一度声をかける。


「夏野君!!」


すると何故か、周りの騒々しい音が消えた気がして、夏野君がスローモーションで振り返ったように見えた。
まるで、私と夏野君だけが、空間から切り離されたかのように。
何故か、夏野君以外の人が、私の目には見えない。
しかし、そんな事を気にしてる場合じゃない。私の問いかけを夏野君がシカトしなかった、このチャンスの方がずっと大事だ。


「話したい事があるの。放課後残って、聞いてくれる?」


すると、夏野君はイエスもノーも言わずに、ただ頷いてみせた。急激にクラスの騒々しさが戻ってくる。
すぐに担任が教室に入ってきて、帰りのHRが始まった。
私は担任の連絡事項も特に聞こえずに、ただ夏野君の"首を縦に振ってみせる"という返事の意味を考えていた。あれは、イエスなの? それとも、ノーなの?





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