彼が虚勢をはる理由





「その後、俺は"ソイツが他の友達を庇って、代わりに苛められるようになった"という事実を知ったんだ。そういや俺は、ソイツと庇われた友達と面倒な連中が、放課後の体育館の裏に一緒に居たのを、一回だけ見かけた事があった。何とも思わなかったんだ。後に庇われた友人が殴られているのを、視界の端で見た気がした」


夏野君は、腕時計すら無い、何も付けてない両手を、夕日にかざして見せた。
細いんだけど、ごつくて骨ばった夏野君の指が、オレンジ色の夕日の中で、逆光で黒く見える。


「庇われた友達が殴られてたのをその場で理解出来てれば、俺がその場で応戦出来てれば、こんな事にはならなかったんだよ。今でも悔しいね。その場で迷わず、俺が連中を殴れてれば、こんな事にはなってない。――だから俺は、いつでも迷わず人を殴るし、いつでも迷わず人を殴れるように、手には何も着けてない。……ただ、」


そこで夏野君は、一回だけ深呼吸した。


「俺はただ人を傷付ける為の目的だけで手を使うつもりは無いし、どれだけ人を殴っても、この手は他の誰かを守る為の物だと思ってる」


夏野君の両手には、夏野君の責任以外の、大事な何かが握られているような気がした。
……話し終わった夏野君は、少しだけ疲れてるように見えた。





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