ケータイ小説『ハルシオンのいらない日常』 著:ヨウ

「ヨウが小説書いたり読んだりしてるこ と、最初は意外と思った。中学の時、ヨ ウは小説に興味とかなかったし」

「でも」と、海君は続ける。

「次の瞬間、考えるまでもなく、ヨウら しいと思った。

ううん、むしろ、今までよく頑張って自 分を抑えてたなって心底思った。

ヨウが小説に夢中になるの、当然だと 思った」

「当然?でも、私、プロの作家みたいに はなれない。ありきたりの恋愛小説しか 書けないんだよ。

小説の……自分の栄養になるような恋な んてこれっぽっちもしてこなかったか ら、中身からっぽのスカスカな駄作ばっ かりで。

それなのに、読者さんにチヤホヤされる のが嬉しくて、皆の期待を途切れさせた くなくて、私にずっとずっと注目してほ しくて……。同じような小説を書くこと で、現実から逃げてた。

底辺の人間のクセに、自己顕示欲も甚 (はなは)だしいよ……。


小説を書くことは、自分の唯一の趣味 だったはずなのに、全然楽しめなくて、 最近はただただ苦しくて……。毎日をや り過ごすだけで精一杯。どうしたら楽に なるのかな。もう、分からない。


私には何もない。悩みを共有できる女の 子の友達も、心から愛してくれる男の人 も、自分を心配したり叱ってくれる親す らいない。どうやって生きていったらい いのか、分からないよ……!」

「もう、そんなこと二度と言わせない」

「海君……!」

「ファン1号として。いや、海瀬海とい う、ひとりの人間として」

全身を包む海君のぬくもり。

悲鳴を上げていた心と体を、あの日失っ た空部部員が抱きしめていた。
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