【完】そろり、そろり、恋、そろり
聞きたい事はもっとあったけど、ここで麻里さんに追求するのはやめた。山下さんたちの前でする話ではないと思うから。昨日のことも含めて、帰ったらちゃんと話そう。そして、謝ろう。


すぐに小川が飲み物を用意してくれて、それを飲むうちに少しずつ気持ちが落ち着いてきた。


それからは落ち着いて話を聞けた。なんで山下さんたちの式には麻里さんがいなかったのかとか、学生時代の話とか、俺の知らない麻里さんの話も聞くことができた。


「そういえば、披露宴で使ってた写真に麻里さんいた?居たら気付きそうだけど……」


「それは私も気になるかも」


話を聞きながら、ふと疑問に思った事を聞いてみた。俺の質問に、小川もうんうんと頷く。


「意外と写真って撮らないもんだよ」


「そうそう、俺らが高校生のときは携帯のカメラ機能も今ほどよくなかったしな。集合写真くらいしか、一緒に写ってるのはないんじゃないかな」


そういえばそうだね、と麻里さんと山下さんは顔を見合わせて笑っている。その様子がなんだか面白くない。


俺が知らない麻里さんを山下さんはたくさん知っている。思い出を共有していて、俺が絶対に入り込めない2人の関係。


俺たちが出会ってから、たかだか数ヶ月。出会う前のことに気にしていたら埒が明かない。……分かってるつもりだけどな。


こうやって目の当たりにしてしまうと、穏やかな気持ちではいられない。


ちらっと小川を見ると、彼女も少し面白くなさそうな顔をしている。きっと今俺の気持ちをわかってくれるのは、小川以外にいないだろう。明らかに彼女も嫉妬している。


余計な質問をしてしまったかなと、今になって少し後悔した。


つまらない嫉妬心を押し込めることに努めながら、麻里さんと山下さんの話を聞いた。でもやっぱり2人の学生時代の思い出を聞く度に、黒い感情が少しずつ自分の中に蓄積されていく。


懐かしむような、楽しそうな彼女の気持ちも大切にしたいから、必死に、必死に押し込めた。

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