【完】そろり、そろり、恋、そろり
「おじゃましました。また、明日」


2時間ほどおじゃましたところで、俺と麻里さんは山下家から帰宅することにした。


「またね、礼央、美沙さん」


麻里さんも俺の隣でにこやかに別れを告げている。俺は早くこの場を去りたくて仕方なかった。ここに居たら、格好悪い感情をいつか彼女や山下さんにぶつけてしまいそうだったから。


また、そう言って送り出された俺たちは、揃って車へと乗り込んだ。式で飲んだ麻里さんは、最初から車は家に置いてきたらしく、彼女は俺の隣に座った。


「ごめんね、助かった」


「山下さんはそれも見越して、俺に車で来るように指示したんだと思うよ」


運転に集中しなきゃいけないと思うけど、どうしても隣の麻里さんが気になってしまう。さっきは驚きの方が大きくて、彼女の姿をちゃんと見ることが出来なかった。


2人きりになって麻里さんのことを急に意識してしまい、少し短いんじゃないかと思う丈のスカートも、随分と晒されている胸元も、髪をアップにしてよく見えるうなじも、何もかもが気になってしまう。


すごく綺麗。だけどこの姿の麻里さんの周りには男ばかりだったと思うと、腹がたってくる。男の視線を集める麻里さんを想像すると冷静な気持ちではいられない。


「……」

「……」


何か喋ると、余計な事まで言ってしまいそうで、だんまりしていたら、帰路に着く車内では沈黙が続いていた。


横目でちらちらと見た麻里さんは、眠そうに目を擦りながら外を眺めていた。

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