【完】そろり、そろり、恋、そろり
「そんなこと気にしなくていいのに。私こそごめんね、声も掛けないで出かけちゃって」


本当、そんなことは気にしなくていいところなのに。拓斗君の彼女なんだし、それくらいのことは喜んで引き受けるよ。


「あれは俺が寝ちゃってたから。でも……あれ?じゃあ何に怒ってたの?」


「……え?」


「だって……あのメモ。怒ってるとしか思えなくて、けど俺何にも覚えてなくて、すごく焦ったから」


難しい顔をした彼の言葉に驚いてしまった。感情的に行動してしまったことを、今更後悔した。


「あれはね……」


言おうか言わまいか、心の中で葛藤し、口ごもってしまった。彼が気にしている分、そのままにしておく訳にはいかない。私の中ではもう解決した事だし、言ってもいいかな。


よし、と話始める前に、小さく深呼吸をした。


「怒ってたといえば怒ってたかな。でも、それは迷惑だったとかそんな事じゃなかったの。昨日ね美沙さんは私のことすぐに拓斗君の彼女だって気づいたの。拓斗君には彼女の話もするような、同僚の女性もいるんだなって思い知らされた感じで……私の知らない拓斗君に、悲しくなったというか急に不安になったの。そんな状態のときに拓斗君は気持ち良さそうに眠ってて、それには少し怒ったかな」


今思うと、身勝手な怒りだなって笑えてくる。そして、それを気にして振り回されてしまったらしい拓斗君に申し訳ないと感じた。


「でもね、礼央に再会して、美沙さんに会って実際に話をして、勝手だけどもうスッキリしてる。だから、拓斗君が気にする事は、もう何もないよ」


拓斗君の目を見つめながら、微笑みかけた。言葉にしたことで、本当にスッキリとした。

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