【完】そろり、そろり、恋、そろり
「麻里さん?」


彼の腕の中からもぞもぞと抜け出した私に、拓斗君は不安そうな顔をしている。そんな彼を見ていると、愛おしいという感情が溢れてくる。


首の後ろに手をまわし、ぎゅっとしがみついて、彼を引き寄せる。そして、私からそっとキスをした。


「好きだよ……拓斗」


彼の唇から離れたあと、今度は耳元に唇を寄せた。自分の声で想いをちゃんと伝えたいから。


「ずるいよ麻里さんは。ちゃんと責任とってよね」


参ったな、と呟いた途端に、今度は彼からキスが降ってくる。私から贈った触れるだけのキスとは違って、彼は最初から深く、貪るように口付けてきた。隙間から舌が入れ込み、私の口内を侵していく。


角度を変えながら、深く、深く。彼から与えられる激しいキスに溺れて、徐々に私の身体からは力が抜けていく。


ふと見た彼の目は、いつの間にか欲情の色に変わっていた。その目を見た瞬間に、ドキっと心臓が跳ねて、身体が内側から熱くなってくるのを感じた。





「……もっと、頂戴」


頭に浮かんだと思ったら、もう言葉となって出てきてしまっていた。


「麻里さん、ベッド行こう」


彼にしがみついたまま、首を縦に振る。もっと彼に触れていたい、彼を感じていたい。
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