【完】そろり、そろり、恋、そろり

店員の再会 side:T

……運命だと思った。


香坂、池田との食事から帰って自宅でゆっくりとしていた。食事はアルコール抜きでなんとなく物足りなかった俺はどうしても飲みたくなって、冷蔵庫を漁ったけれど、目的のものは1つも入っていない。


目的の物どころか、冷蔵庫はほぼ空。明日の予定も完全に忘れていたことを思い出した。


池田たちと打ち合わせをしていた結婚式の主役2人が明日は俺の家に来る事になっている。俺が写真を持ってきて欲しいと頼んだから。


さすがにお茶もお茶菓子もなしってのはよく知った相手でもダメだろう、ととりあえず最低限必要なものを買いに近所のコンビニにやってきた。


コンビニの中に入り、一番に向かったのはアルコールのコーナー。ビールを飲みたいという俺の欲求が1番だった。


さっさと買って帰ろうと足早にそこに向かったのに、先客に足を止めることになった。俺の目に映ったのは一人の女性。彼女は……さっきのお店の店員さんだ。まだ苗字しか知らない瀧本という名の店員さん。俺が一目惚れして、今強烈に興味を引かれている相手。


こんな所で出会うなんて、きっと運命だと勝手に確信した。運命とか、そんな言葉を実際に使う日が来るとは思ってもみなかっ。


話かけようかどうしようか悩み、結局どうするか決められないまま、ただ彼女を観察する事になった。今の俺って、周りから見たらただの怪しい奴だよな。自分の状況を冷静に見てそんな事を思って、苦笑した。


俺のことを覚えてくれているかすら怪しく、もちろん俺の存在に彼女が気いているわけもなく、真剣な顔でお酒が陳列された棚を眺めている。


……あっ、笑った。可愛い。


1人でうんと声が聞こえそうな位に首を縦に振ると、にっこりと笑って棚からよく冷えてそうなビールを手に取った。すごく幸せそうな顔をして。


1、2缶ではなくて、手に取ったのは6缶パック。女性が1人で飲む量だとは思えない。彼氏、いや旦那?きっと男が待っているのだろうか。俺の頭の中に、受け入れたくない考えが浮かんだ。


傷つきたくないのなら、彼女を深追いするべきじゃないと頭では分かっている。けれど、それでも彼女のことをもっと知りたいと思う自分も確かに存在している。
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