【完】そろり、そろり、恋、そろり
「いらっしゃいませ」


私の声の後に、店内の奥にいたスタッフもいらっしゃいませと私に続いて挨拶をしている。


キョロキョロと他の店員の現在地を確認すると、みんな接客中らしい。そして、私が1番お客様の近くに居る事に気づいた。ここは私が案内をするしかないみたい。


最近ではあまり表に出て接客することが少なくなってきていたけれど、こういう時には話は別。もちろん私だってたまには接客くらいする。バイト生に指導する立場な以上、直接お客様の対応をする必要があるはずだから。


「何名さまですか?」
男性3人が扉から入ってすぐの所に立ち止まっていた。ここに男性だけのグループが来るのは珍しいため、もしかしたら誰かと合流するのかも知れないと思い、しっかりと人数を確認した。ここは女性客かカップルが多い所だから。


「3人です、空いてますか?」


3人の内の1人が、指を三本立てながら答える。


私の先読みは大きく外れていて、どうやらこの3人で全部らしい。珍しいなと思ったけれど、それほど驚きはしなかった。いや、驚く余裕がなかったと言うほうが正しいかもしれない。


男性だけでの来店よりも、他の事が気になってしまったから。だって、この3人の顔が整っていること、整っていること。みんな黒髪短髪で、すらっと背も高く、顔も非常に整っていてとにかく爽やかで、非常に目立つ。その証拠に、店内の女性客やスタッフまでもが、彼らに熱い視線を送っている。


彼らに注がれる視線を見てから妙に胸がざわつき、嫌な予感がしている。店的に喜ばしくない何かが起こってしまいそうな予感。……何事も起こらないといいけど。


店長が休みになっている今日、責任者は私。今日の営業が何事もなく終わりますように!そう心の中でこっそりと祈った。


「はい、大丈夫ですよ。ご案内します」


とくかくまずは案内だと、頭の中をモヤモヤと漂う嫌な感じをさっと振り払うと、営業用の笑顔を貼り付けて対応した。


お客は談笑しながら、私の後を付いてきている。席は……あそこかな。注がれている視線に配慮して、座席は店内の隅の方。ここなら他の客に囲まれることはないだろな、きっと。


座席に案内したあとは、ここのシステムをかんたんに説明して他の仕事へと戻ることにした。3人とも物凄く愛想が良くて、説明が終わると「ありがとう」と笑顔をくれた。


きっと今の笑顔を見て、普通の女性はトキめいちゃったりするんだろうけど、私は違っていて凄く冷静なままだった。だって、確実にモテるんだろうし、周りの視線を全く意識していない様子から見て、絶対に自分達がモテることを自覚しているタイプに違いない。要するに、私が苦手なタイプ。といっても、ただのお客様と一店員だから、モテるモテないは関係ないんだけどね。


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