【完】そろり、そろり、恋、そろり

201号室 side:T

「そうそう、隣。だから最後まで帰りは一緒になるね」


そう言って彼女は可愛い笑顔のまま、俺のことを見つめてきた。ドクリと心臓がはねたのがはっきりと分かる程だった。目を合わせていることが恥ずかしくなって、さっと目を逸らした。この空気に耐え切れなくなった。



――

―――……


あ……れ…?つい数秒前までほんのり甘い、いい感じの雰囲気だったはずなのに空気は一変し、一気に冷え切った気がした。


逸らした目をまた彼女に戻すと、なぜか泣きそうな、不安そうな顔をしている。それなのに、顔は笑っている。お店で見たときと同じ、明らかに作っている笑顔。さっきまで笑ってくれていたのに、急に、なんで?


俺何かまずい事でも言った?


慌てて自分の言動を振り返ってみるも、これといった理由らしきものに心当たりはない。


答えは見つからないまま、あっという間に自室の前に着いてしまった。終わって欲しくない時間ほど、なんでこんなにも時が過ぎるのが早いのか。


もう少し話をしていたいと思いなかなか足が進まない俺とは違い、彼女は部屋に近づくにつれ歩くペースが早くなっている気さえする。本当に、急にどうしたんだろう。あんなに楽しそうに笑ってくれていたのに。


彼女の足が止まったのは、本当に俺の隣の部屋の202号室。そして、驚く程あっさりとじゃあねと扉を開けて、中へと入ってしまった。


――バタン


静かに音をたてるドア。……彼女の姿がついに見えなくなった。


ポツンと廊下に1人取り残されてしまったことで、急に寂しさが増してしまった。さっきまでとの落差がすごくて、切なすぎるくらいに。


「……俺も帰ろう」


誰にも聞かれていないのをいいことに、1人ぼそりと呟いた。静か過ぎる廊下に声が響く。
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