【完】そろり、そろり、恋、そろり
「そういえば……」


もう1つ気になることがある。この足でここまでどうやって来たんだろうか。そして、


「帰りはどうやって帰るんですか?」


そう、帰宅方法。左足の怪我だがら運転できなくはないだろうけれど、今の状態で運転してきたとは思えない。しっかり固定していれば話は別だけど。


「来るときはあがりのバイト君に送ってもらったから、車は職場に置いてきちゃったし……タクシーで帰ろうかな」


「それだったら、一緒に帰りましょうよ」


「いや、さすがにそれは悪いよ」


俺の提案に彼女は間髪入れずに断りを入れてくる。こんな状態の麻里さんをほっとけなくて、ここは俺も折れる気ない。


「遠慮だったら必要ないですよ。どうせ帰る先は一緒なんですから」


「……それもそうか。じゃあ、お言葉に甘えてお願いしちゃおうかな」


「そうと決まれば、さっさと松葉杖調整して帰りましょう」


喜んではいけないきっかけだとは分かっているけれど、少しでも彼女と過ごせるという事に嬉しくなった。「ちょっと待っていてください」と伝え、急いで松葉杖を用意しに行った。


高さとグリップの調整をして、使い方の説明をして、少しだけ歩く練習をして、せかせかと終わらせた。ちょっと位雑でも構わないだろう、だって俺が付いてるんだからな。


貸し出しの手続きも終わらせて、車椅子に乗せたまま彼女を外来の待合室まで案内した。


「じゃあ、会計終わってもここで待っていてください。急いで着替えてきますから」


「うん、分かった。待ってるね」


そう約束をして一旦お別れをした。


さて、一度デスクに戻って荷物を取って、そして着替えて、麻里さんと2人で帰ろう。足早に外来から、リハビリのスタッフルームがある新館へと向かった。


スキップしそうなくらい浮かれた心とニヤニヤと緩みきった顔に、ここは職場の廊下だから落ち着けと必死に言い聞かせた。

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