【完】そろり、そろり、恋、そろり
洗い物も終わり、出しっぱなしになっていたお茶を仕舞おうと冷蔵庫の扉を開けて、俺は固まってしまった。まさにその光景は圧巻だった。


冷蔵庫にずらりと並ぶ、ビール、ビール、ビール。相当好きなんだろうことが一目で分かった。けれど、可哀相。だってさ……


「麻里さん」


ソファに座り寛いでいる彼女に声をかけた。


「何?」

「お酒……」

「お酒?」

「しばらくダメですよ」


突然の発言に彼女は意味が分からないという顔をしている。当然の反応だよな。


「それだけ熱もって、腫れていて痛みがある時に飲むと、血流が良くなるせいで痛みが強くなったりしますから。炎症が落ち着くまで控えたほうがいいですよ。好きみたいですけど」


「……えー」


俺の忠告に、心から嫌そうな顔をし、少しショックを受けているらしい。この反応きっと俺が帰ったら飲むつもりだったんだろう。


ついでにと、他にもアドバイスというか、悪化させないための注意事項をいくつか伝えた。今日はシャワー浴がいいよって事も。


理由はさっきとほぼ一緒。温めると、血管が拡張して血流が良くなり、痛みを促通してしまう恐れがあるから。


炎症、熱感……その言葉と同時に、自宅の冷凍庫の中のものを思い出した。


「そうだ……麻里さん、ちょっと待っていてください」


急な行動に驚いている彼女に一言告げて、一度自分の部屋へとばたばたと戻った。


よかった、冷凍庫を開けると、お目当てのものがちゃんと入っていてひと安心。2つほど手に取り、来た道を逆戻り。
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