【完】そろり、そろり、恋、そろり
第6章.201号室【住人:大山拓斗】

初めてのデート side:T

麻里さんを俺の彼女だと呼べるようになって、2週間が経過。2年間出会えなかっただけあって、生活時間が随分と違う事をこの短い期間に痛感した。互いの家を行き来しながら、一緒に食事をする程度にしか会えていない。家が隣でよかったとつくづく思う。


そんなすれ違い気味な生活と裏腹に、今俺の心はうきうきとしている。ようやく2人の休みが重なって、デートというデートが出来ることになった。麻里さんの希望はゆっくりと映画でも観にいきたい、それだけだったから残りのプランは俺が考えることになった。


楽しみに待っていた日が明日と迫ってきて、少しの焦りも覚える。今は服を何にしようかと、鏡を見ながら悩んでいるところ。女子か、と自分で突っ込みたくなったが、悩むものは悩む。麻里さんはどんな感じの服装が好きなんだろうとか、室内で合っていたときには考えなかったことを考えている。


悩みに悩んだ結果無難な路線で行くことにした。デニムのパンツにTシャツ。シンプルな無地のTシャツを二枚重ねることにした。これならば可も不可もないだろう。服装に特に拘りはないから、彼女の好みを徐々に探って合わせていけばいい。


なんとか服も選び終え、ベッドにごろんと横になり、明日の事を考える。2人の初めてデート、彼女を楽しませることが出来るのか不安だ。


今頃麻里さんは何をしているんだろうか。もう仕事から返ってきたのだろうか。2人を遮る壁を見つめながら考える。
いつだって気付けば頭の中は彼女でいっぱいになる。





――ジリリリリ


けたたましく鳴る音で強制的に覚醒した。手探りで目覚まし代わりのスマホを捜すけれど見つからず、慌てて体を起こして探した。昨日は考え事をしながら、そのまま眠ってしまっていたらしい。普段は充電しながら枕元に置いているけれど、定位置に置く前に力尽きてしまっていたようで、体で下敷きにしていた。耳元に近いところにあったから、あんなにも大きな音だったんだと1人納得した。


伸びをすると節々が軋んだ。無理な姿勢で眠っていたことが明確。幸先の悪いスタートだなと、今日のデートが不安になった。ダメだ、ダメ、こんな弱気では。


よし!と気合を入れなおし、活動を開始することにした。シャワーを浴びて、冷蔵庫に入っていたもので適当に朝食も済ませた。


準備万端整えたものの、まだ待ち合わせの時間には随分とある。なかなか進んでくれない時計の針を見つめながら、何をしようかと考えた。


待ち遠しいことはどうしてこうも中々やってこないんだろうな。


とりあえず、とテーブルの上に置きっぱなしだった本を手に取った。浮かれてばかりいないで、休み明けの仕事のために少し勉強しておこう。久しぶりに担当する疾患の患者がいて、勉強しておく必要があったことを思い出した。


今の俺には丁度いい。仕事の事を考えていると、浮かれがちな気持ちが、落ち着いていくのを感じる。

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