【完】そろり、そろり、恋、そろり
「「「乾杯―。改めて、おめでとうございまーす」」」


リハの同僚3人と山下夫妻という気心知れた5人で今日は飲む。一瞬見つめあった後に、優しく微笑みながら、ありがとうと声を揃える姿に、こちらまで幸せな気持ちになる。


料理とお酒を口にしながら、新婚旅行中の話を聞いたり、俺たちも2人が休み中の病院での出来事を報告したりしていた。


山下さんのグラスや皿が空くと、さっと小川が注ぎ足して、小川のが空いたら山下さんがという具合に、仲の良さをさりげなく見せつけられた。いいな、俺だって麻里さんと……


「……いいな」


結婚して、幸せそうで、息もぴったりな2人を見ていると、羨ましいなという気持ちが大きくなっていき、つい声に出してしまった。言葉にしてしまった後に、ハッとしたけれど遅かった。


顔をあげると俺の発言を拾おうと、ニヤニヤと笑っている香坂と池田が目に付いた。


だけど、一番に声をあげたのは2人ではなくて、予想外の人物だった。


「……大山さんも、結婚意識してるんですか?」


同僚2人がつつくよりも、的確な言葉を投げたのは小川だった。俺が気付いていなかった気持ちを、当たり前のように告げられた。そうだよな、意識しているからこそ、出た言葉かもしれない。


そこからは麻里さんとのことを根掘り葉掘りと聞かれた。口を閉ざそうとする俺に酒をどんどん奨めたりしながら。





……全員ちょっとはしゃぎすぎたかもしれない。ハンドルキーパーの小川以外、明らかにいつもよりペースが速かった。


少しずつ、少しずつ、頭がふわふわとしてきた。……やばい、楽しい。
< 90 / 119 >

この作品をシェア

pagetop