【完】そろり、そろり、恋、そろり
「拓斗君?」


黙り込んでしまっている俺を、心配そうに彼女は覗きこんでくる。


「……なんで?」


「え?」


「なんで麻里さんがここに?友達と一緒なんじゃ……」


訳が分からない。どうして友達のところに行くと言っていた彼女が、山下さんの家にいるのか。全く状況が把握できないでいた。


「とりあえず、大山さん中に入ってくださいよ」


固まったまま動けずにいた俺は、麻里さんの後ろから現れた小川に急かされることになった。まだ玄関の外にいることにやっと気付いた。促されるままに、中へ入った。


「ごめんね、拓斗君。ちゃんと説明するから」


俺と麻里さんを置いてさっさと部屋の奥へと進んでいく小川を追いかけながら、麻里さんが俺にだけ聞こえる位の声で言った。


驚きが相当大きかったらしく、未だに頭がうまく回転してくれず、声は出さずに何度も頷いた。





小川に続いてリビングへと入ると、こちらをニヤニヤと見ている山下さんがいて、小川もその隣に移動していた。何かあったんだろうか、よく見ると山下さんはスーツ姿だった。まるで、先日俺がこの2人の結婚式に着て行ったときみたいに。


……結婚式?


「もしかして」


ここでやっと頭が働きだした。俺の隣にいる麻里さんと山下さんを交互に指差しながら、呟いた。


「……正解、かな?」


俺の様子を余程楽しんでいるんだろう、山下さんが緩みっぱなしの顔のままに答えた。


「2人が同じ披露宴に出席していたことは想像できましたけど……説明してください」


2人が顔見知りだったんだろうなということは、この状況をみて何となく理解した。けれど、どういう知り合いとか全く想像がつかない。それに、今の状況に至った理由を知りたい。


俺だけ知らないという事に、疎外感を感じて、少しムッとした顔をしてしまった。
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