飴と道楽短編集
―独koma楽―【3P】
 からりころりとぽっくりが転がる音。 今日が今日という日故に、洒落た着物で愉しそうに掛けていく少女達。 それらを通りすがり、後ろ姿を見送る翔太。

 冬だというのに、着流しに簡単な羽織りのみの出で立ちで外へ赴いた事は無謀だった、と改めて感じる。

 嚔(くしゃみ)。

 どうにも自分は季節に無頓着の様で、ふと下を見れば下駄の中の素足は赤く縮こまっていた。 ぶるりと鳥肌を立たせ、各々の袖口に隠れた腕を更に深々と中へ入れる。

「こりゃあ、たまったもんじゃない」と口を衝いて、少女達と擦れ違った時よりも早足で家を目指す。 郵便箱が何故にこれ程迄に自宅から遠いのか。

 寒さと面倒臭さとで翔太は眉間を顰め、下駄を鳴らして砂利道を歩いていく。



 今日は正月だ。 皆神社へ初詣だの金持ちは玄関前に門松だの、子供は河川敷で凧揚げだのを勤んでいる。 しかし翔太にはあまりに正月の実感が無かった。

 季節に疎く、祭事に迄興味が無い――いや興味が無い訳では無いのだが、仕事柄世間様とは離別した生活を送っているが故、仕方が無いと言えば仕方が無い。

 昨日は通いの家政婦が蕎麦を飯に出してくれたのだが、あれが年越蕎麦だったと理解したのは除夜の鐘が九つか十鳴ってから。
 我ながら大晦日を忘れるまで俗世間を離れていたとは、と驚いたものだ。 そしてこのままでは "はいから" な若者に付いて行けなくなるなぁ、などと考える。
 何故こうも年を喰う度に若者を気にする様になるのか。


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