飴と道楽短編集
「如何すれば…ってなぁ」
握っていた万年筆を落とす。
調度そこで家政婦の宮田が顔を出した。
「あらまぁ先生、煮詰まっているんですか?」
朱色の盆に湯気の立つ湯飲みが乗っている。
部屋から暫く出て来なかった翔太に気を利かせて、茶を入れてくれたのだろう。
「いや、ちょっと気晴らしに別の話を書いてただけですよ」
言って、翔太は座椅子の背凭れに沿りながら大きく伸びをした。
その間、宮田が机の上から今現在翔太が思い付く儘に殴り書いていた物語の原稿を引っ張り出す。
「どれどれ?…へぇえ…ほんと、なんだか脈絡ないですね」
「ちょっと畑違いの物が書きたかっただけです」
少し膨れっ面の翔太に対し、宮田は呆れた様に微笑んで「推理小説家に恋愛模様の話は難しいでしょう」とだけ言って、翔太の作業机に湯飲みを置いた。
「ところで先生、この間の来週お休みを頂く話なんですけど」
ああ、と翔太は顔を上げて宮田と向き合う。
「姪御さんの結婚式でしょ?十分祝ってあげてください。それにこの機会に宮田さんも休まれては…」
「ええ…でも先生、私が居ないと全く家事をやらないじゃないですか」