飴と道楽短編集
 翔太の無頓着である。
その勢いは季節や行事を通り越し日常生活にも至っており、だから物書きになったのだと本人は言っているのだが、実際放って置けば風呂にも入らないし食事も取らない。

「別に問題ないですよ…」

「駄目です!!そんなだから三十路近くになっていいひとの話も沸いてこないんですよ!?」
 宮田はまるで母親の様に翔太を叱咤する。

「いいひとって…あまりそんな興味は。ていうか俺まだ二十七です」

「兎に角、一週間、先生の身の回りのお世話を私頼んでおきましたから」

「え?」

 宮田の思わぬ発言に、翔太は目を丸くした。

「ど、どういう事です?」

「あっ五時から山里の八百屋でお野菜が安くなるんだったわ!では先生ちょっと買い物行ってきますね」

 いそいそと宮田は部屋から出て行く。

 翔太は一人その場に残されたが、整えていない頭を一度ぽりぽりと掻いて再び原稿に戻った。

 何にせよ自分の仕事を先に仕上げてしまおう――


 先程書いた息抜きの小説を机の下に追いやり、翔太は再び万年筆を握った。


          【了】


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