飴と道楽短編集
花【1P】

春爛漫な言葉がよく似合う、草原。

花畑。


君は風に舞う花びらの中、くるくると回っていたね。


「あたし、花好きなのよ」


本当はお花屋さんになりたかったの、なんて、可愛い事を言ったりして。


愛情を持って育てれば裏切らないもの。

それが花なの、と。


そういえば君の部屋の窓辺には、いつも綺麗な花が咲いていたね。


季節を彩る色とりどりの花は、淡いものから極彩色まで。


君はどれも、愛おしそうに育てては見つめていた。



「だからあたし、花の中で死にたいわ」



――あぁ、その希望はきっと叶う。



「分かった」










無機質なコンクリートの街中で、彼女は赤の極彩色の中にいた。

それこそ花開く様に。

君はやはり、とても美しかった。



「ベランダから身を滑らせるなんて……運が無いね」


「あら……運なんて関係ないでしょう?死ぬ時間は決まってるって……あなた言ったじゃない」


君は今までと同じ柔らかな顔で微笑んだ。


「そうだね……時間ぴったりだ」


僕の担当はこれで終わる。

監視の対象だった君は、希望通り自らが花と化していた。


「……例えが上手いのは評価するけど、死神さん?私は本当の花の中で死にたいわ」


それも、分かったと僕は言った筈だ。



「――――」




ひらり


ひらり



舞い降りる花びらは君にしか見えないだろう。

それでも満足してくれるかな。

君と過ごした一年間。
君が僕に見せてくれた花達の見送りを。

沢山の花

雪の様な花片を。



「――……」


君はもう語らない。

微笑まない。


けれどこの花達と同じ様に

美しさはそのままだ。




お望みの花葬を

君に








―花―


< 29 / 49 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop