飴と道楽短編集

―衝season動―【２P】

友人と過ごした時間はとても楽しかった。

それは今迄の生活や仕事の喧騒など、心の奥底に追いやってしまうくらいに。

いや

もう日々の疲労を総て取り払ってしまう程

時間を絶つ事を忘れ、語り合い、笑いあった――




そして友人と別れ帰路に着く。


「――はぁ」


吐かれた溜息は決して疲労感などではない。

これはこれから日常に戻る自分へ――

再び人々に気を揉み、自らを生活の中に送り込み、仕事に終われる日々を――



「――また、明日は仕事か」

幸福の後の虚無。


それは瞬く間に自分を束縛した。


別に毎日が苦し過ぎる訳ではない。

友人にはいつでも逢おうと思えば逢えるし、自炊が嫌いという訳でもない。
仕事から逃げたい訳でもない。



――だがそれは


一時の、何も気にせず何にも縛られず過ごした時間と天秤に掛ければ


それは地に着く程の重さ。

支える為の“幸福”は一時のものだけ。

自分は斜に構えた天秤を水平にするだけの“常にある筈の幸せ”を、この時一瞬にして見失った。


ただ生きている事――

その時点で、“生きながらえている”者達よりシアワセな事を、分かっていたのに無視をした。


傾いた天秤に勝てはしない。


自分の日常は此処であり、他は関係無い事は現実、現状だと押し潰された。


なら自分がどういう事で幸せか
どういう事が幸せと思えないか

決めるのは自分自身で良いじゃないか。



「――――」


口にした言葉は、人が聞いたら嫌悪するかもしれない。

何を甘えた事を。

たかだか日常に戻るくらいで。

本当の絶望も知らないくせに。


そんな声が聞こえてきそうだった。



だがこの思いは真実だ。



誰かに言うべき事でもない。

勿論あの友人にも。


そして現実から逃げる程、私は度胸もないし日常を棄てる気にもなれない。


故に私はまた明日も


進まない足に叱咤して仕事へと赴くのだろう。