恋愛しない結婚
どうするべきか悩みながら、緊張感いっぱいの打ち合わせが終わったのはちょうど昼食時。
何故か打ち合わせをしていた何人かと一緒に社員食堂で食事をすることになった。
園田 奏を筆頭に、妙に整った男前達が多い銀行チームと並んで座っていると、社内の女子達の目が全てこちらに向けられているようで居心地が悪い。
私の右側には社内で人気の葉山くん。
左側には誰が見ても文句なく格好いいと思うに違いない園田 奏。
ひたすら食べているハンバーグ定食の味なんか全く感じられない。
「さっきも言ったけど、今日も輝さんの店で待ってるから」
突然、園田奏では私の耳元にそう囁くと、悪戯っ子のようにニヤリと笑う。
「今日は仕事がおしてるんで無理です」
赤くなってるかもしれない顔を隠すように俯いてそう言い返しても、彼は気にすることもない。
「何時でもいいよ。明日は土曜で休みだし、帰りは夕べみたいに送るから」
「……っ」
慌てて周りを見ると、園田 奏のわざとに違いない大きな声に、向かいに座る上司や関係のない社員達みんなが私に注目していた。
「ちょっと、声大きいよ」
「別にいいだろ?プロポーズだって済ませてるんだし」
うわっ、さらっと言ったな。
まるで慣れてるみたいに。
「プロポーズ受けるなんて言ってない」
小さな声でそう言い返すと。
「でも、俺は夢と結婚するって決めたし」
「はあっ?」
にっこり笑う園田 奏に何も言えないまま、その男前な顔を見ていると、
「ここが俺の部屋なら今すぐキスするのに」
その甘い声に反応するように、周りの女の子達のため息が聞こえた。
私だって、そんな甘い声に溶けそうになった。
……なんてこと、顔に出さないように注意しながら、まだ残っていたハンバーグを必死で食べた。
そして、周囲からの視線に気づかないふりをして食堂をあとにした。