恋愛しない結婚



その日の夜、残業で疲れた体のまま輝の店に向かった。

「絶対無理」

開口一番、カウンターで飲んでいる園田 奏に言った。

「プロポーズなんて大切なことを初対面の私に簡単に言える神経が理解できない」

輝の苦笑に気づきながらも私の言葉は止まらなくて。

店に入ってきた勢いのまま、まるで仁王立ち。

私の勢いに気圧されるわけでもなく、飄々としたままの園田 奏は。

「初対面じゃないし、簡単に言った訳じゃない」

自分の隣の椅子をひいて、ぽんと叩くと、座れば? というような視線を投げてきた。

「まぁ、今日、仕事で会うのわかってたし、もう少し俺の存在を知ってもらってからプロポーズしようと思ってたんだけど」

くくっと笑う声は、どこか余裕いっぱいで、思わず引き込まれそうになる。

その一方で、その余裕にむかついてしまう自分もいて。

「いつプロポーズされたって園田 奏となんか結婚しません」

「なんでフルネーム?」

「え?そこ?」

とにかくちゃんと断らなきゃと、必死で言ってる私に、フルネームで呼ばれる事を問い直す園田 奏に目が点になる。

どこまで私の言葉をスルーするんだろう。

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