恋愛しない結婚
あっさりと頷く奏というこの男前。
一瞬、彼の言葉に私も頷いて受け入れてしまいそうになる。
でも、何か大切な事を忘れてないだろうか?
結婚するにあたって、とても大切なことを。
「あの、何かすっごく大切な事実を忘れてない?私たち、昨日会ったばかりで付き合ってません。それに、あ、あ、愛しあって、ないし……。どう考えれば結婚できるんでしょう?」
愛してるなんて言葉に照れながらもどうにかそう言って、隣でビールを飲んでいる奏の顔を覗き込むと、
「結婚してから付き合っていけばいいし、愛し合えばいい」
物憂げな瞳に見つめられて、私の心拍数はかなり上昇していく。
私だっていい大人の女だけど、それでもまだ結婚を夢見てるんだから……こんなに整った顔で甘く言われたら、若い女の子みたいにどきどきしてしまう。
そんな私の戸惑いを見透かしたように、目の前の男前はたたみかけるように言葉を続ける。
「な、結婚しよう。夢が存分に仕事をしたいなら仕事優先の生活でもいいし、仕事をやめて家庭に入りたいならそれでもいい」
気付けば、奏は私の手をぎゅっと握っている。
思いの外温かくて嫌じゃない。
振り払おうと思えば振り払えるその強さは、まるで私の気持ちを試しているようだ。
それをわかっていても、なんだかこの手の暖かさが嬉しくて、今の私はこの手を振り払おうとは思えない。
そう感じる自分に戸惑いを覚え、そんな気持ちを隠すように奏に声をかけた。
「ねえ……私と結婚して、奏にはどんなメリットがあるの?」
もしも奏と結婚したとして、私は社内の煩わしい評判から逃れて仕事に集中できるけど、私と結婚しても、奏が幸せになれるのかが疑問だ。