恋愛しない結婚
『社外の男からプロポーズされてるくせに、葉山くんの側に近寄らないでよ』
食堂を出た後、資料のコピーを取りに印刷部に行く葉山くんと別れてエレベーターを待っている時に聞こえてきた声に、一気に気持ちは落ち込んだ。
葉山くんと昼食をとったり一緒にいるだけで遠くから聞こえてくるきつい声。
多分葉山くんのファンなんだろうし、荒立てて仕事に支障をきたすのも嫌でいつも聞き流すけれど今日は何だか簡単に聞き流せない。
さっきの葉山くんが見せた歪んだ表情が気になるからか、気持ちが敏感になっている。
仕事に気持ちを集中させれば顔を出さない弱い自分が、今は表に出てきてどうしようもない。
『仕事を理由に葉山くんを振り回さないでほしいよね』
あぁ。どうして私は仕事だけで評価してもらえないんだろう。
結婚したくないなんて言わないけれど、仕事に手を抜いて男を探してるわけじゃないのに。
どこまでも落ちていきそうな気持ちを引きずりながら、エレベーターに乗り込もうとした時。
「見つけた」
ぐっと掴まれた右腕の反動でよろめいた体を抱き止めてくれた温かい胸。
慌てて見上げると
「奏っ」
最近の私の鼓動はこの男前の為に動いてるんじゃないかと思うくらいに、ドキドキという音だけに包まれた。