恋愛しない結婚


「ぼーっとしてたけど、疲れてるのか?」

「あ、ううん大丈夫」

相変わらず質の良さそうなスーツが似合う姿に、落ち込んでいた心が和むのを感じる。

強引で強気な目の前の男にそんな感情が溢れて、おまけに心地良さも感じるなんて、不思議だ。

「打ち合わせまで時間があったから食堂にいるかなって覗きに来たら、見事ビンゴだったな」

奏は優しい声と視線を私に向けながら、手の甲で私の頬をそっと撫でた。

「夢が仕事を第一に考えて、真面目にやってるってちゃんとわかってるさ」

「は?」

「輝さんの店で愚痴りながら酔うのもわかるな。女の的外れなやっかみを、初めて見たよ」

低い声でゆっくりと、どこか怒ったような顔で話すその視線の先には、多分、葉山くんの同期の女の子たち。

さっき私に聞こえるようにきつい言葉を言ったのも彼女たちだろう。

「欲しい男がいるなら、自分の魅力だけで手に入れろ」

エレベーターに乗り込んだ彼女達に向かって奏でが投げた冷たい言葉は、しっかりと彼女たちに届いたようで。

エレベーターの中で私達を振り返った彼女達は、どこか居心地が悪そうだった。

「早く俺と結婚しろ。仕事もしっかりこなして、俺みたいな上等な男も手に入れて、あんな女達が羨ましくてため息つくくらいに幸せを見せつけてやれ」

私を抱きしめたまま、頭上からそう言った奏にどう答えていいかわからず、私もかなり居心地が悪かった。



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