隣に座っていいですか?これはまた小さな別のお話
桜ちゃんは素早く階段を駆け上がり、自分の部屋に飛び込む。

私より彼の方が先に桜ちゃんの部屋に着き、一緒に私も部屋に入ろうとすると、彼の手が私の身体を押さえた。

「僕が行く」
端整な顔が強張り、私を威圧する。

「私が悪いんだから、私が行く」
私が桜ちゃんに説明しないとダメだよ。彼じゃダメ。

「郁美さんはいい。僕が行く」
彼は絶対譲らない。

「私が桜ちゃんに言わな……」

「僕が桜の父親だ」

彼のきつい口調に私は黙る。

きっと情けない顔をしていたのだろう、彼は私の表情を見てから、優しく肩を軽く叩き「待ってて」って部屋に入る。

扉を開くと
暗闇の中、桜ちゃんの泣き声が聞こえた。
その声が耳に響き
胸が張り裂けそうになる。

今すぐ部屋に入りたい。
謝りたい。
『違うんだよ、ゴメンね』って何度も言いたい。ギュッと抱きしめたい。

でも
私は部屋には入れない。

『僕が桜の父親だ』……紀之さん。

「じゃぁ、私は桜ちゃんの何なの?」
その背中が視線から消える前
彼に向かって声をかける。

彼の動きが一瞬止まるけど、そのまま扉は閉められた。

私は

何なの?

ずっとずっと
ずっと私は桜ちゃんの部屋の前で、座り込んで泣いていた。




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