隣に座っていいですか?これはまた小さな別のお話
だから
私は甘えて声を出す。

「紀之さん」

「はい?」

「私、桜ちゃんのお父さんとしての紀之さんは少しわかるけど、田辺紀之さんについて、知らない事がたくさんあるかもしれない」

「たとえば?」

「バスケしていたのも知らなかったし、ヘビースモーカーなのも知らなかった」

「なるほど」

「もっと、あなたを知りたい」

顔を上げて
ジッと目を見て言うと、彼は小さく「わかりました」って言い、私の身体を隣に戻し立ち上がる。

「ビールとワインとウーロン茶、どれがいい?」

「え?」

「夜は長いよ」

そうだね。長い夜になりそうだ。

「紀之さんと同じでいい」

「了解」

彼はスパークリングワインとチョコをテーブルに運び、グラスに注いで私と乾杯。

「田辺紀之、A型、しし座、中学高校と部活はバスケ。趣味は読書、好きな作家は……」

次から次へと
私の肩を抱きながら耳元で語る彼。
音楽のような心地よい声。

好きな色、好きな音楽、今まで一番嬉しかった事、宝物、海外留学、旅行……互いに色々な事を聞き、色々な事を語る。

夜は長い。

私達は
ずっとずっと

ふたりでワインを飲みながら


ずっと語り明かしていた。

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