隣に座っていいですか?これはまた小さな別のお話
「私がやりますから!」
迫力ある私の声にビクリとなる夫。

「もう少しで……」

「いや、ここのネジが違う。違う部品と繋いでるし」
設計図を見て指摘すると

「あ、そっか。さすが郁美さん」と、爽やかな優しい顔で私に微笑む。

顔がいいから許される。
リアルに感じた。

でも人生それじゃいけない。

きつく指導しながら
何とか台を組み立てて
赤い高級感ある【もうせん】という布をかけて、本日はおしまい。
明日に続く。

明日は人形を飾ろう。

「前のアパートでも飾ってたの?」

「飾ってましたよ。2DKの寝室に飾って、リビングでみんなで寝てた」

よかったね
広い家に越してきて。

「桜は?」

ふたりで仏壇にお線香を上げてから、和室を出て大きく伸びをすると彼が聞く。

「うちの実家で、そば打ち体験してる」

「将来は安泰ですね」

そうだね
きゃりーぱみゅぱみゅちゃんのコスプレをさせて、たまに忍者村で修行をして、そば屋のオーナーになるのが理想だな。

そこへ
うちの忍者が帰って来て
私は夕食の支度

仲良し父娘は
ソファに座りながらお話をする。

台所で
桜ちゃんの楽しい話を聞きながら、手を動かしていると

「ゆうとくんがね。ホワイトデーにきたいしていてって、いってたよ。ゆうとくんはさくらのことがスキなんだって、だからおかえししてくれるんだって」

無邪気に語る娘の隣で

ガラスのハートの男は

苦しそうに胸を押さえていた。
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