隣に座っていいですか?これはまた小さな別のお話
私がうなずくと

「僕は、そこの社長の次男なんだ」
サラリと告白されてしまった。

お金持ちのぼんぼんだったのか。
なるほど納得。
どうりでしっかりしてなくて
フワフワと、地に足が着いてないヤツだと思ってたら。

そうだったんだ。

「だから彼女はそれを狙ってた。売れない翻訳家はポーズで、本当は金持ちで贅沢三昧してると思って、僕に近づき……桜を授かった」

玉の輿に
狙われたデキ婚?

「結婚したはいいけれど、僕は親と仲が悪くて、家を出た存在だったのを後から知り、売れない翻訳家が本当だってわかって……大荒れ」

寂しく笑う田辺さん。

「それでも、僕は……彼女が好きだった。小さいけれど家庭を持って、桜が産まれて彼女と桜を幸せにしようと思ったんだけど、彼女は満足しなかった」

田辺さんは頑張ったと思う。

「彼女は、桜が産まれたから、僕が家に帰って親の仕事を手伝うと思っていたらしく、そこでまた食い違う」

私には理解できない人もいるようだ。

「売れない翻訳家は、お金が足りなくて株で儲けていて。そのお金で彼女を満足させていた。彼女は桜の面倒もあまり見ず、友達と遊び歩いて……桜の二歳の誕生日前に……出て行った」

「急に?」

「急に」
田辺さんは、私の言葉を繰り返す。

「桜の面倒は僕がほどんど見てたので、大丈夫と思ったけど、成長するにつれ、やはり笑顔に無理が出てるし、心が不安定な時もあるし……株の残りのお金をつぎ込んで、こちらの家を見つけて、桜の樹に惚れて引っ越しました」

ラストは歯切れよく
田辺さんにも笑顔が見えた。
< 92 / 277 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop