隣に座っていいですか?これはまた小さな別のお話
「お待たせ」
フットワークも軽く
田辺さんはペットボトルのお茶を二本手に持ち、私の隣にグイグイと座り込む。
肩が触れる距離。
「あ、すいません。狭いです?」
そう言いながら避ける気もなく、私にお茶を渡して桜の樹を見上げていた。
横顔も綺麗な男性。
はっ!見惚れてる場合じゃない。
何をやってんだろ私。
自分に気合を入れるように、ペットボトルを開けて喉に流し込む。
「喉渇いてました?すいません、気がつかないで」
とぼけた事を真顔で言われてしまった。
本当に……調子が狂うわこの人。
「あの」
何から話そうか、頭をぐるぐるしていると
「妻との出会いは、友達の紹介でした」
田辺さんの方から
ゆっくりと穏やかに話し出す。
「友達に作家がいて、大きな賞を取ったお祝いの席に呼ばれて、彼女に会いました」
懐かしそうに
遠い目をしながら語る。
「ゴージャスな美人で、高飛車でワガママで……だけど目が離せなくて、僕は夢中になったけど、売れない翻訳家って言ったら鼻にもかけられなかった」
それは悲しい。
「でもある日、彼女から連絡がきて……僕たちは付き合うようになった」
「急に?大逆転?」
「ネタバレをすると、郁美さん××ホテルって知ってる?」
田辺さんが名前を出したホテルは、誰もが知ってる老舗一流ホテルで、本元は、ホテルだけではなく不動産とか外食チェーンとか、色んな事に手を広げている大企業だった。