溶ける温度 - Rebirth -

あの日のあの後。
思考停止状態になってしまった頭を無理やり回転させ、曖昧にお礼を言ってなんとか話を強引に変えた。
だって、あんなストレートな思いの伝えられ方初めてだった。どう返事をすれば正しかったのだろうか。並みの経験値しか持たない私にはハードルが高すぎる。

しかし、とりとめのない世間話を明るいトーンで二人に振ったのに、なぜか真さんはそれからだんまり状態。結局、妙な沈黙が三人を包み込んでしまった。
それを感じ取った大志さんはそろそろ失礼するよ、と告げ席を立つと、スマートに名刺を私に渡してそっと耳元でささやいた。


『連絡して。よければ次は、二人で会いたい』


一度どろどろに溶けてしいた脳内が、再び沸騰するかと思った。


そして大志さんは約束通り、きっちり倍額のお金を払って、去っていったのだった。
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