黄昏時に恋をして
「履歴書、見せて!」
 いよいよ面接が始まるようだ。それにしてもラフ、と言うか。
「上尾多香子、二十五歳」
 面接担当なのか、若い女性が受け取ると、何を思ったのか、名前と年齢を読み上げた。
「若いね~」
 おばさんたちがざわめいた。
「横綱食品の社員食堂で働いていたんだ!」
 横綱食品は大手の冷凍食品メーカー。オフィス街に本社ビルがあり、私はそこの社員食堂で働いていた。
「なんで辞めてこんな田舎に来たの?」
 言葉が出なかった。そんな質問、されると思っていなかったからだ。
「大きな会社だからいろいろあるよね。その点、田舎はいいよ! おばちゃんの相手してりゃいいんだから」
「そっかぁ~。まぁいいや」
 えっ? いいの? 質問に答えられなかったのに。
「じゃあ、お茶飲んだら食堂の案内するから」
 面接は、これで終わり? さすがに戸惑いを隠せなかった。
「あっ、そうだ。自己紹介していなかったね。私は、志木真奈美。もうすぐ熊谷になります」
「いつなるんだろうね」
「こちらの意地悪なおばさんが……」
 志木さんと名乗る若い女性は、おばさんのツッコミも難なくスルー。
「意地悪じゃないよ。私ゃ口が悪いもんでね」
 決して険悪な感じじゃなくて、仲良さげな感じのするふたり。
「川口さん、吉川さんに北本さん。食堂の調理担当。私は栄養士で、もうひとりいた方が定年退職をされて欠員が出たから、募集したの。食堂は寮と調整ルームの二ヶ所あるからね」
「あの……。私は採用していただけるのですか」
「こんな田舎に来てくれただけで即、採用! 明日から働いてもらうよ」
「あ。ありがとうございます」
 戸惑う。とにかく戸惑う。碌々、面接も受けていないのに、採用してもらえるなんて。


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