黄昏時に恋をして
 出走のファンファーレが鳴り響き、競馬場全体が歓声に包まれた。各馬、順調にゲートインしてスタート。馬は、騎手とさまざまな想いを乗せてターフを駆ける。スタートは、全馬ほぼ互角。先手を狙って前に二頭。一頭挟んでブラックアウトは内側から四番手につけていた。四コーナーあたりから、スパートをかける馬が出てきた。でも、ブラックアウトは相変わらず内側で四番手だった。先を行く前の二頭と四馬身ほど差がついていた。
 最後の直線入り口にさしかかった時だった。前を走る馬が、急に内側へ切り込んできた。すぐ後ろを走っていたブラックアウトはよけることができず、馬に接触した。あっ、と言う声も出ない間にブラックアウトは転倒し、大夢くんは落馬した。
「あの野郎! 急に内側に切り込みやがって。完全に騎乗ミスだな!」
 熊谷さんは吐き捨てるかのように言った。大夢くんはターフの上で倒れ、動けなくなっていた。すぐ救急隊に助けられ、その後、救急搬送された。私はただ、目を見開いたまま、その光景をみつめることしかできなかった。
「おたかさん、大丈夫? 行こう!」
 真奈美さんに半ば抱えられるような形で歩くと、志木先生の元に急いだ。
「戸田先生が付き添いで行ったよ。また連絡が入ると思うから」
 戸田先生とは、調教師である大夢くんの父のことだ。大夢くんは? 不安で胸が苦しい。お願い。どうか、無事でいて……。

 戸田先生から連絡を受け、私たちも志木先生と一緒に病院へと向かった。脳挫傷で意識が朦朧としていたけれど、今は、先生の問いかけに頷いたりしているようだ。
 病室のドアをノックする。大夢くんは、ベッドで目を閉じ、眠っているようだった。
「幸い、頭以外は打撲程度で済んだみたいだけれど」
 その通りで、見た目は痛々しい感じもしなかった。顔が見られて、少しだけ安心した。


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