黄昏時に恋をして
寂しさ
　騎手免許を返上し、引退した大夢くんは、戸田大厩舎で調教助手として、再スタートを切ることになった。同期や仲の良い先輩たちの計らいで、レース終了後に引退セレモニーが行われた。
「本日はお集まりいただき、ありがとうございます。年齢的にはまだまだ乗れる年ではありますが一身上の都合により、騎手を引退することになりました」
　落馬事故で視力低下しての引退とは言わなかった。その事実を知っているのはほんのわずかな人間だけだったので、志半ば、突然の引退宣言に事実を知らない競馬関係者やファンを驚かせた。
「今後は、父である戸田大の厩舎で、調教助手として再スタートすることになりました。これからもホースマンとして、競馬界を支えていきたいと思っています」
「最後になりましたが、私を支えてくださった先生、関係者、騎手、そしてファンの皆様、今までありがとうございました。これからも一緒に競馬を盛り上げていきましょう」
　大きな歓声と拍手の後、大夢くんが咳払いをすると、静寂に包まれた。
「何度生まれ変わっても、私は騎手になります」
　騎手人生をその言葉で締めくくると、深々と頭を下げた。大夢くんの熱い想いに、私が号泣した。

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