黄昏時に恋をして
ラーメンデート
 今日は、食堂で新メニュー試食会。ランチ限定で新しいラーメンを出すことになり、ヘルシーで低カロリーな物を考えた。試食人は、真奈美さんと食堂のおばさん、管理人さん。
「野菜たっぷり、煮込みラーメンです。肉は50グラムしか入っていないけれど、野菜がたっぷりで満足感は得られると思います。スープは塩味です」
「これで三百六十九キロカロリーなんだ? 女子は好きそうだね」
「騎手の方が減量している時に、これならいけるかなぁ、と」
「なるほどね。あっさりして美味しいね」
 真奈美さんやおばさん方は、口々に感想を述べてくれた。
「ありがとうございます。男性の意見もぜひお願いします」
 管理人さんに聞いてみる。
「私は若くないからね、あっさりして美味しいと思うけれど、若い子はどうかな?」
 痩せの大食い、戸田さんの顔が頭に浮かんだ。
「おばちゃんもアリだと思うけれど」
「とりあえず、ちょっと出してみようか?」

 次の日、さっそく食堂の新メニューになったのだが、真奈美さんがつけた名前がおたかさんラーメンだった。
「ちょっ、ちょっと、真奈美さん! こんなネーミングじゃ注文しづらいですよ」
 抗議はしたけれど、逆にネーミングが受けて、結構注文が入った。戸田さんも注文してくれた。
「美味しかったです。ごちそうさまでした」
 食べ終わり、食器を返却する時、戸田さんはそう言って返してくれた。
「それだけ? ラーメン好きなんだろ?」
 ひと言、そう言ってくれただけでも私は嬉しかったのに。おばさん方がするどいツッコミ。
「スープがあっさりしていて、グビグビ飲めました。低カロリーだし」
 グビグビって、その表現。思わず、笑ってしまった。
「美味しいラーメン屋があったら、勉強のためにこの子を連れて行ってやってくれる?」
 どさくさに紛れて、おばさんのひとりが私の肩を叩きながら言った。
「ええ。ぜひ一緒に食べに行きましょう」
 戸田さんからの意外なひと言に、私は目を丸くした。言葉も出ない。息ができなくなるほどに、胸の鼓動が加速した。
「よろしく頼むよ」
 おばさんのひと言に、私はお辞儀をするのが精一杯だった。






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