齧り付いて、内出血
細身のスーツに先の尖った革靴。
隙のない格好をしてるのに、ふらりふらりとしたどこか怠そうな歩き方はこの人独特のものだ。
『おはようございます。久世さんがここにいらっしゃるなんて珍しいですね。』
「早く着いたから、様子見に。」
『様子見、ですか?』
なんのだろう。この人は普段他の階にいるからここには特に何もないはず。
「かわいい後輩チャンが、そこの眼鏡に虐められてんじゃねえかーーてね。」
「冷血漢の口からそんな言葉が出てくるとは、明日は槍でも降るらしい。」
『・・・。』
この2人のコミュニケーションはだいたいこんな感じ。
これはこれでうまくいってるみたいなのだ。
「少し外に出てくる。浅倉サンはこれ読んでおいてくれないか。」
これ、と言ってさっきまで睨みつけていたPCの画面を指す。
読むのはいいんだけど、
『矢野さん、出かけてしまうんですか⁈』
つい、大きめな声がでてしまい、矢野さんは「何か問題でも?」と言いながら、シルバーフレームの奥の瞳を一瞬見開いた。