苦恋症候群
手すりに置いた手を、また無意識にきつく握りしめた。



「三木くん……あの、私……」

「ああ、だから、誰かに言うつもりはないですって。……けど」



そこで彼は、初めて口角を上げる。

冷たい……けれど綺麗な、微笑みだった。



「虚しいなって。そう思っただけです」



そのひとことが、鋭利な刃物のようにぐさりと胸に突き刺さる。

呆然とする私の視線の先で、あっさり彼は続けた。



「それじゃあ俺、支店の方に戻るので。お疲れさまです」



言うが早いか踵を返すと、三木くんは職員用の出入口の方へと去って行く。

残された私はその後ろ姿が完全に見えなくなったところで、思わずその場にへたりこむ。



「……はあ……」



震える指先が、冷たい。

今にも泣きだしそうな衝動を必死で堪えながら、深く、ため息を吐いた。
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